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あとかのブログ

海外ドラマを中心に、日々のことやブログのこと、不意に思い出した思い出等を書き綴ってます。昔、販売の仕事をしていたので、時々家電ことを書いてみたりします。

【季節外れのサンタの話】今でも忘れられない「あの事件」のこと【イラスト:sai.さん】

15年以上前、私はある小売業に務めていました。

だだっ広い売場に、家電や日用品、衣料品、玩具など、様々な商品を扱っている大型店舗を中心とした会社でした。

 当時、勤務していたのは、社員15人と、パートさんやアルバイト学生が合わせて50人ほど勤務していました。

地域でも結構繁盛しているお店で、現在の「働き方改革」という言葉すらない時代のことです。

サービス残業、休日出勤は、当たり前となっていました。

大学を出て、その会社に入社した私は、20歳代でいくつかの店舗の転勤を経験し、30歳になる頃には、「副店長」という。いわゆる「管理職」に就任しました。

同期入社の中でも、昇進は早い方だったと思います。

若くても管理職になると、売り場の担当社員と違い、様々なトラブルや事件への対応を担うこともありました。

  

今回は、私が小売業に勤めていた頃に起こった「ある事件」と、今でも忘れられない思い出について、ご紹介します。

 

15年以上前のこととは言え、一応身バレしない様に敢えて細かい点は変更しています。

また、記憶を頼りに書いていますので、一部正確でないこともあるかも知れませんが、ご容赦ください。

 

今回は、私が大ファンのブログを運営されています、sai.さんに素敵なイラストを提供いただきました!

過去、3度コラボをお願いしましたが、その度に進化され、さらに表現の幅を広げられています。

今回は、また新たな境地を開拓されています。

是非、sai.さんのブログにもお立ち寄りください。

www.sai-kurashi.com

 

 

 

【季節外れのサンタの話】今でも忘れられない「あの事件」のこと【イラスト:sai.さん】

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午後9時:閉店業務

それは11月の半ばを過ぎた頃のことでした。

小売業にとってのその時期は、もうクリスマス商戦が既に始まっています。

催事コーナーに特設売り場が設けられ、クリスマスツリーやオーナメント、子供たちが欲しがる玩具は山の様に高く積み上がっています。

 

売り場担当の社員ではなく、「管理職」となった私は、「何でも屋」でもありました。

パートさんやアルバイトの勤怠管理や、お客さんのクレーム対応、テナントさんの管理など、日々目まぐるしく動き回っていました。

まだ若かったこともありますが、とても充実していました。

 

当時、そのお店は閉店時刻が21時でした。

管理職にとっては、閉店間際が1番忙しい時間帯です。

しかもその日は、上司である店長と、もう一人の副店長は、それぞれ出張と有給休暇の旅行中でした。

いつもは管理職の二人体制で行っているレジ締め作業を一人でこなしながら、閉店業務にも目を配っていました。

 

そんな状況でありながら、作業的にはとても調子が良く、レジのデータと入金金額がピタリと合いました。

日によっては、5000円以上も不足することもありました。

レジ担当者が、1万円札を受けとったと勘違いして、実は5000円札だったりすると、そんなことが起こります。

時には、何故か多い場合もあり、その方が始末書の対象となりました。

お客さんから、多く受け取っているということになりますので、特に問題視されたのです。

 

21時に閉店し、事務室の片付けやレジ締め作業は21時半には終了しました。

そこから、売場担当社員から業務終了の報告を受け、最後に店舗内全てのドアの施錠確認がありました。

施錠自体は、閉店時に売場担当者で行っていますので、そのチェックが管理職の日課でです。

通常管理職2人体制で行う重要な確認業務のため、1人だけベテラン社員に残ってもらいました。

2人で、全てのドア、窓のロックを目視した上、私自身、実際に手で押してみて、開かないことを確認して回りました。

その後、店舗内全ての照明を落とし、2人で従業員出入口から外に出ました。

外から管理職の持っているカードキーで、機械警備をかけました。

これで、何かあれば警備会社に連絡が行く様にセットされたことになります。

 

午後10時:ハッポウ

その日は、22時過ぎには帰宅できました。

23時近くなることもありましたので、よくできた方です。

もちろん管理職ですから残業代などは出ていませんでした。

 

私は半年ほど前に結婚したばかりで、奥さんが夕食を一緒に食べようと、そんな時刻まで待っていてくれました。

ざっと顔を洗ってから、リビングにて、早速遅い夕食をいただこう、と思った矢先、携帯電話が鳴りました。

こんな時間に電話がかかってくるということは。。。

 

電話に出ると、ハキハキとしたおそらく体育会系の男性の声が聞こえました。

「〇〇警備の××です。あとかさんのお電話でしょうか?」

「はい。ハッポウですか?」

ハッポウとは、銃を撃つ「発砲」ではなくて、「発報」のことで、店舗のセキュリティに問題があった場合、自動的に警備会社に連絡が飛ぶことです。

 

「そうです。今現在、店舗内に残っている方はいらっしゃいませんね?」

「私が最後の施錠と、機械警備のセットをしましたので、無人のはずです。」

「店舗の2階屋上駐車場のドアの施錠はされましたか?」

「間違いなく、施錠を確認しています。」

先ほど、念のため押してみて開かなかった2階のドアの感触が、私の手に残っていました。

 

「今から約2分前に、屋上駐車場のドアの開閉が確認されました。

警察への通報と共に、私共も急行しています。

あとかさんも恐れ入りますが、できるだけ早くお越しいただけますか」

「わかりました」

 

やれやれ、と思いました。

副店長に就任して1年ほどで、今回が3度目の発報でした。

過去には、外部からバールの様なもので自動ドアのガラスを割られたこともありました。

幸い、侵入は未遂に終わり、ドアのガラスの修理代だけが保険処理されていました。 

 

今度はドアを開けているということはわかっているので、店舗内に賊が侵入していることは確実でした。

おそらく屋上駐車場に車を乗り付け、ドアを何らかの方法で開けて押し入っていて、現在は家電製品や腕時計、化粧品など、換金価値の高いものを物色しているはずです。

 

着替えをして、車を走らせ、15分ほどで再び店に戻りました。

警備会社の車とパトカーが2台、店舗裏の従業員入り口の前に、既に到着していました。

 

「あとかさんですか?〇〇警備のYと申します。こんなお時間にすいません。」

「あとかです。遅くなって、すいません。では入りますか?」

「既に解錠させていただき、うちの者が警察の方と一緒に入っています。

あとかさんは、お呼びするまでお車で待機いただけますか。」

警備会社も当然、機械警備のロックの解除するカードキーを持っていました。

 

ここはプロにお任せして、しばらく自分の車の中で、素直に待機することにしました

車内で、店長に電話で報告し、 「わかった。任せる」とだけ言われました。

 

15分ほどすると、警備会社のYさんが私を呼びに来ました。

店舗内に促しながら、説明してくれました。

「あとかさん、中には誰もいない様ですし、ざっと見たところは高価なデジタルカメラの展示品とか、貴金属類は盗られた様な形跡もありません。

ただ、2階のドアは開けられていましたので、我々の気づいていないものが倉庫などで無くなっていないか確認していただけますか。」

高価なものは倉庫に放置している方が危険なので、全て売場の中の鍵のかかったカゴ棚に収納していました。

一応バックヤードと、事務所の金庫の状況を、歩いて見て回りました。

確かに、ビデオカメラやDVDレコーダーの展示品はそのまま並んでいましたし、時計コーナーのショーケースが割られたり、物色されている形跡もありませんでした。

 

そういえばゲーム機があったと、ふと思いついて、玩具コーナーの確認に向かいました。

当時ゲーム機では、NINTENDO64やプレイステーションなどが現役で、換金性も非常に高い頃でした。

ゲーム売り場は独立してパーテーションの囲いの中に集められていて、警報付きのゲートが設置されていました。

人気のゲーム機は、それぞれの在庫が、そのまま残っていることが確認できました。

ゲームソフトの在庫なども、特に問題ない様に見えました。

 

そこで、私は「おや?」と気づきました。

その棚に大量に在庫があったはずの、「ある商品」がほとんど無くなっていました。

その商品は、それほど高価なものではありませんでした。

 

ちょうど、その時、

「あとかさん!」

遠くの方で、警備会社のYさんの声が聞こえました。

「はい、こっちです。」

「侵入した人間が見つかりましたよ!

今、上(2階)で確保してるそうです。」

「そうですか。1人ですか?」

「そうみたいです」

「私も盗られたと思われる商品が、わかりましたよ」

「そうですか!良かった!

取り返せたら良いですね。」

 

やがて、2階から警察官達が、彼らが捕まえたばかりの「容疑者」を連れて、降りてきました。 

その人物を見て、私は、「やっぱり」と思いました。

 

警察官に手を引かれ、そこにいたのは「小学生くらいの男の子」だったのです。

 

午後11時:無くなっていたもの

 警察官が私に説明を始めました。

「屋上駐車場の隅っこで、何かカードみたいなものをライターで大量に燃やしてましたよ。

副店長さん、見ていただけますか。」

私は、その実物を見る前に答えました。

「そのカードは多分、『遊戯王カード』ですね」

 「遊戯王カード」とは、当時、小学生の間で爆発的に売れていた人気のカードゲームです。

 

1パックは5枚入りで、普通のカードの他に、レアなキラキラしたカードやシークレットカードなどが、子供達の収集心をガッチリ掴んでいるトレーディングカードでした。

さらに、そのカードを使って対戦バトルもできたのです。

1パックの中にレアカードが入っていることは稀で、子供たちは小銭を握りしめ、「次のパックには入っているかも」と、一縷の望みをかけて購入していました。

最近でも、レアカードの中でいまだに高値で取引されているものもあるそうです。

 

その、おそらく10歳にも満たない男の子は、「遊戯王カード」を山ほど抱えて屋上に持ち出して、次々にパックを破いては、レアなカードだけを抜き取って、普通のカードを片っ端から焼いていたのでした。

本人なりの証拠隠滅だったのかもしれません。

 

何十ものパックから、レアカードをザクザク引くのは、当時の子供達の夢だったと思います。

午前0時:警察にて

それから、警察官が駐車場全体や敷地内をくまなく探し回った様ですが、その男の子の保護者はおろか、車の1台も見当たりませんでした。

警察官が少年に名前や誰ときたのか尋ねていましたが、ギュッと唇を結んだまま話そうとしませんでした。

子供だけでこんな時間に?とは思いましたが、仕方なく、警察署に連れて行くことになりました。

 

「こんな夜中に 恐縮ですが、あとかさんも、署まできてもらえますか」

仕方がありません。

実際に、この少年が何故こんなことがしたのか、知りたいという思いもありました。

 

最寄りの警察署は、車で10分程の場所にありました。

少年はパトカーに乗せられ、私は自分自身の車で警察署に向かいました。

 

真夜中の警察署は、警察官の姿はまばらで、ガランとしていて静かでした。

もちろん他の場所に、まだまだ待機している警察官がいるのだと思います。

私は、ロビーの様な場所のソファに腰掛ける様に指示されました。

小学生は少し離れた場所に座らせられ、ポケットの中身や手に持っていた遊戯王カードなどをテーブルの上に並べる様に促されていました。

相手は子供ということもあり、警察官たちも威圧的な態度ではなく、どこか優しく感じられて、少しほっとしました。

特にベテランの警察官は、声は大きくて野太いものの、発している言葉は少年のことを十分に気遣っている様でした。

方言がかなり強めで、おそらく、凶悪な犯罪者に対しては、めちゃくちゃ怖いだろうなと感じました。

どことなく、俳優の古田新太に似ていた様な気がします。

仮に、このベテラン警察官を仮に「Fさん」とします。

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Fさんは、しばらく、遊戯王カードについて興味深く表や裏を熱心に眺めながら、少年に「これ流行っとるん?」「これはゲームなんか?」と話しかけていました。

少年の表情はずっと固いままでしたが、問いかけに時折「はい」と返事したり、首を振ったりしていました。

少し離れた私からも、少年の表情が、少しずつ解れてきた様に見えました。

「名前ば、なんて言うと?」

「Kです」

Fさんから不意に聞かれた少年は、素直にフルネームで答えました。

「どこ小(学校)言っとるんかね?」

「〇〇小」

「そっか。おじさんの知り合いも昔、通っとったよ。

5年生くらいか?」

「4年」

みるみる聞き出していきます。

Fさんのプロの尋問テクニックを見た気分でした。

 

そこから、K君は少しずつ口を開いていったのです。

 

午前1時:犯行の手口

大人がさせたのでないとすれば、小学生の子供が、どうやって固く施錠されたドアを開けて、店舗内に侵入できたのか、それが一番の謎でした。

しかも、先ほど見たところ、店のドアのガラスはどこも破られておらず、鍵だけ開けて侵入されていました。

 

Fさんは、しっかりその謎もK君から聞き出していて、私に説明してくれました。 

「閉店する前から、店内のテレビ売り場に隠れてたんですよ。」

テレビ売場は壁面のスペースにあり、最近の液晶テレビと違い、 当時のテレビは、かなりの奥行きがありました。

展示品の下の棚に、箱入りの在庫を置いていましたが、K君はそのテレビの箱と壁面の隙間に隠れていたのです。

 

大人では、入ることすら不可能なスペースですが、小学4年生の小さな体でなら余裕です。

閉店後、TV売場の担当者も見逃していました。

まさか、そんな場所に子供が隠れているとは夢にも思わなかったでしょう。

 

閉店後、店舗内の照明が落ち、人の気配がなくなるまでじっと我慢していた様です。

そして、いつも見ていた遊戯王カードの売場に向かい、山ほど抱えて2階に上がっていました。

1階から出ると目立つと思ったのでしょうか。

そして中からロックを開け、屋上駐車場に出ていました。

外部からはもちろん入れませんが、中からならば鍵のつまみを回せば、容易に出られます。

 

つまり、警備会社に発報したのは、「侵入した」時ではなく、元々、中にいた彼が「外に出た」時だったのです。

 

 「何でカード燃やしたんね?」

Fさんにそう聞かれ、少し考えた顔をしたK君は、思い出す様に言いました。

「寒かった」

そこで気づくのですが、K君は11月の夜の格好にしては、長袖のTシャツの上に上着も着ていないし、かなり薄着に見えました。 

警察署内は暖房が入り、寒くはありませんでしたが、実際に屋上の駐車場は、かなり冷え込んでいたはずです。

 

「お父さんやお母さんはどうした?一緒に来とらんかった?」

Fさんのその問いには、K君は答えませんでした。

それどころか、それ以降、下を向いたまま何もしゃべらなくなりました。

 

他の警察官が、K君の持っていた「遊戯王カード」がお店の商品かどうかの確認と、1パックあたりの販売価格を聞いてきました。

被害状況の確認でした。

 

 そんな話をしていると、警察署の入口の自動ドアが開く音がして、誰かが入ってきました。

私がそちらの方を振り向くと、そこには、30歳くらいの男女の姿が見えました。

がっしりとした体型の日焼けした男性と、小さな幼児を抱っこした女性でした。

K君の両親に違いありませんでした。

 

午前2時:迎えに来た人物

 K君のフルネームと小学校がわかれば、親に連絡を取ることくらい簡単なことだったと思います。

父親と思われるその男は、こちらの方に一直線に歩いてきました。

草履の様なものを履いているせいか、早足で歩く「ザリザリ」という音が署内の廊下に響いて、とても耳障りでした。

男はそのまま、私の前を一瞥もせずに通り過ぎ、K君の目の前まで足を進めました。

K君はじっと下を向いていて、そのことに気が付いていない様でした。

 

いきなり。

 

K君は、跳ね飛ばされた様に、ソファから転がり落ちました。

その男が、平手でK君を殴った、ということを理解するのに、しばらくかかりました。

多分、私は信じられなかったのです。

大人が、おそらく父親が、子供を力任せに殴りつけるということが。

今、この文章を書いているだけでも、胃の奥底の方から、何か嫌なものが込み上げてきています。

 

「何やっとるか!」

Fさんが怒鳴りました。

構わず父親はK君に言い放ちました。

「こんなん、言うてわからんヤツが、迷惑かけたんやろが!」

言っていることは、よくわかりませんでしたが、激しく怒っているようでした。

 

もう私は意味がわかりませんでした。

何を怒っているのか?

親として、子供の心配が先では無いのか??

だいたい、こんな小さい子供がこんな時間に外にいたってどういうことだ???

 

私の方が怒りがこみ上げてきました。

そして同時に、こんな親のことを、K君がじっと待っていたということが、とても悲しくなりました。

 

そうは言っても、私の立場は、ただの「被害者」です。

彼らに、何も言う筋合いも、関係性もありません。

 

それでも、これはあんまりです。

 

いまだに興奮している父親を、Fさんがずっしりとした重い声で、制しました。

「いい加減にせんねっ。こっちにきて話を聞くから!」

父親は、あまりの迫力にビクリとした様に見えました。

そこから、さらに続けました。

「下手したら、あんた、傷害の現行犯でもあるけんね。」

それが、当時の法律的に本当なのかどうかはわかりませんでしたが、私は「罪に問われて、当たり前だ!」と思いました。

Fさんのその言葉に少し怯んだ様な反応をした父親は、ブツクサ言いながらも、他の警察官に促され奥の方へ歩いて行きました。

 

残された母親らしき女性は、K君に寄り添いもせず、離れた場所で呆然と見ていました。

そこで初めて、K君が泣いていることに気づきました。

これまで、何人もの知らない大人たちに囲まれても、固い表情で歯を食いしばっていたのに、あの父親の登場でボロボロと涙がこぼれ落ちてきていました。

 

私には、その涙の理由は、殴られた痛みだけでは無い様な気がしました。

 

午前3時:帰り道

私は、そこで帰されることになりました。

私がそこにいたからといって、それ以上話があるわけでもありませんし、現場検証や調書作成に「明日、お店で協力してほしい」とだけ要請されました。

 

遊戯王カードの正確な被害額と他に持ち出しているものがないか確認する様に依頼されました。

時刻はその時点で、もう午前3時に近づいていました。

警察官には、早朝7時には出向くと言われ、仕方なく承知しました。

話が済んで、気がつくと私の周りに人はいなくなっていました。

K君や母親、Fさんの姿もありませんでした。

別室での話し合いになったのでしょう。 

 

警察署から出てみると、いつの間にか、強めの雨が降り出していました。

私は、大粒の雨に髪や肩を濡らしながら、駆け足で自分の車に乗り込みました。

帰り道、運転しながらも、どこか上の空だったかも知れません。

それに、それまでの疲れが一気に吹き出してきたのか、車のシートに沈み込んでいくかの様に、自分の身体が重く感じられました。 

信号待ちで停車して、目の前のワイパーが左右に動くのを眺めていると、K君がFさんに話していたことが、ぼんやりと思い出されました。

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K君は「遊戯王カード」を1枚も持っていないこと。

前から、お店の売り場で、ずっと眺めて満足していたこと。

そんなK君と、友達は誰も遊んでくれないこと。

 

そして、何より私の胸に刺さっている言葉があります。

「サンタさんにお願いしたかったけど。

うちには絶対に来ないって、お父さんに言われた。」

 

父親が、本当にそんなことを言ったのかはわかりません。

何か理由があるのかも、しれません。

だからと言って、もちろん、お店の物を盗んだりして良いとは決して思いません。

ただ、子供にとって、とてつもなくショックな一言だったということは、間違いありません。

 

そんなことを思いながら、とてもやるせない気分になりました。

湧き上がってくるこの感情が、怒りなのか、悲しみなのか、自分でもよくわかりませんでした。
 

午前6時:次の日の朝

 帰宅した私は、少し横になっただけで、あまり寝付けませんでした。

すぐに明け方近くになってしまい、私は仕方なく、また着替えて、早目に店に向かうことにしました。

帰宅してから私が何も喋らないので、奥さんは何も聞かずに送り出してくれました。

外に出ると、雨はすっかり上がっていました。

 

店に着くと、機械警備を解除し、ついさっきまでは制服を着た人達が何人もうろついてた、無人の店内に入りました。

そして、昨日の現場を確認し、遊戯王カードのデータ上の在庫数と、売り場に残っている在庫から、持ち出されたカードの枚数を計算しました。

およそ60パックほどだと、わかりました。

他に持ち出されたものはありませんし、金額で言えば、被害額としては1万円くらいでした。

 

それから、もう一つの現場である2階の屋上駐車場を確認しに行きました。

K君がカードを焼いていた場所はすぐにわかりました。

そこには、昨夜、警察官が拾い切れていなかった遊戯王カードの袋と、焼け残ったカードの一部が散乱していました。

昨夜の雨で水滴がついたそれらの残骸を拾い集め、また店舗内に戻りました。

 

事務所に向かう途中、ふと立ち止まり、催事コーナーで華やかに飾り付けられたクリスマスツリーを見て、何故かとても虚しい気分になりました。

腕時計を見ると、まだ午前6時前でした。

警察官との約束の時刻までは、まだまだありました。

 

被害額としては少額ですし、子供のやったことですから、その後も大した騒ぎにはなりませんでした。

店内で、この事件について知っているのは、管理職だけです。

その後、警察からも、その親からも何も連絡はありませんでした。

(本社の担当とのやりとりはあったはずです。) 

 

しばらくして、一度、ベテラン警察官のFさんを、店内で見かけたことがありました。

巡回の途中だったのか、店内を一回りした後、すぐに退店され、声を掛けることもできませんでした。

また、何と言って声をかけたら良いかもわかりませんでした。

 

そして、あの後、K君が一体どうなったのか、知る由もありません。

 

 最後に

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あれから15年以上の時が流れ、今では私にも2人、子供がいます。

子供たちには、小さい頃から「サンタクロースは、子供が来て欲しいと願っている間は来る」と教えています。

 

今年、もう小学校6年生になった息子も、まだ半年も先のクリスマスを心待ちにしています。

サンタさんに何をもらうか、今からワクワクしながら検討しているのです。

高校生になった長女は、流石にサンタ制度の仕組みについて、もうわかっていると思います。

それでも、ありがたいことに、ちゃんと弟に付き合ってくれています。

サンタが来てくれる子供達だけでなく、サンタになれる親も本当に幸せだと思います。

 

雨の降る夜中、信号待ちをしている車内で、今でも、この事件のことを時折思い出します。

あの後、K君にも、サンタが来てくれるようになったのでしょうか?

そして、願わくば、あのK君本人が、今では誰かのサンタになっていてくれたら、

そう思っています。

 

 

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